キリサキ[ライトノベル]

キリサキ (富士見ミステリー文庫)

キリサキ (富士見ミステリー文庫)


連続殺人犯である主人公は死んでしまう。原因はわからない。死後の世界をさまよいながら、今まで自分が犯してきた罪を思い出し、地獄行きは確定だなどと自嘲していると、三途の川で死神のような存在に出会う。死神いわく、「君は本来この時点で死ぬはずではなかった。だからもう一度もとの世界に戻ることができる」やりのこしたことのある主人公は二つ返事で死神に生き返らせるように頼む。ところが、目が覚めてみると自分は別人の姿になっていた。しかも女の子に。さらには、自分が連続殺人犯であるはずなのに、巷では未だに殺人が続いていた。いったい誰が?意外な犯人。意外な真相。意外な超展開。



TSものが好きなので手をだしてみたが、TS好きが妄想するような、異性の体になったらあれやこれやとしたいことをあまり期待してはいけない。ただ、主人公はなかなか狡猾なので、女の子の姿を利用して猫をかぶるというような演技をする場面がたびたびあり、そのへんはニヤリとできるかもしれない。ではミステリーとしてはどうかというと、ミステリーでは肝心要である時間軸を無視しているあたり、首を捻りたくなる。それとこの主人公は死神を利用して色々と身辺調査をさせる。あるいは尾行がいないかチェックさせる。ちょっと反則だ。死神は自分以外の人間には見えないので非常に便利なのはわかるが、それなんてリューク?と思わずつっこんでしまった。「心臓麻痺」なんて言葉もでてきたし・・・これはちょっと穿った見方をし過ぎなのかもしれないが。


私は最後まで全くきづかなかったので、真相を知って多少腑に落ちないと感じながらも、それなりに面白かった。最後まで気づかなかったと書いたが、どういうたぐいのオチかはわかってしまう。つまりフレームの中で誰が一番外側にいるか、ということだ。
以下、本編とは関係ないが読むことによって、本編の真相が予想できてしまう可能性が高い。


例えば、詐欺師の男女がいて、ある男から金を騙し取るために女の詐欺師はその男に近寄る。女は男から金を騙しとるだけなので、演技で男のことを好きになったふりをするのだが、途中で男のことを本気で好きになってしまう。そのことは相棒の男の詐欺師にはまだ気づかれていないが、男のことを好きになってしまった女の詐欺師は男の詐欺師を裏切ろうとする。この三人の認識の枠組(フレーム)、つまりどれぐらい事情を理解しているかということに関して、騙される男が一番枠組の内側にいる。つまり、なにも状況をわかっていない。2番目に内側にいるのは詐欺師の男だ。この男は女と「一緒」に自分が騙される男の枠組の外にいるつもりになっている。真相は詐欺師の男の外側に詐欺師の女はいて、もっとも状況を把握している。ミステリーではよく枠組の内側だけをとりあげて、最後に一番外側を見せるという手法がとられる。いわゆるミステリー用語として頻繁に使われるアレだ。